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講演会


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宗教法制研究所が毎年開催している「講演会」の内容をご紹介します。

令和5年度講演会(森口千弘氏)

 2023年10月20日(金)に、熊本学園大学社会福祉学部准教授森口千弘氏を迎え、「分断化社会の自由と平等――信仰に基づく差別をどう取り扱うか?」という演題でご講演頂きました。

 近年のアメリカでは、人工妊娠中絶、同性婚、オバマケアなどをめぐり、保守派とリベラル派が激しく対立する「文化戦争」が展開されています。

 講演では、トランプ大統領によって保守派の裁判官が連邦最高裁判所判事に送り込まれたことを背景として、マイノリティ保護立法が表現の自由や信教の自由に違反するものとして無効化されていることが指摘されました。

 従来、アメリカにおいては、表現の自由や信教の自由が手厚く保障されてきました。しかし、近年では、人工妊娠中絶に反対する団体が運営する施設に対し、人工妊娠中絶を阻止するための施設であることを明示するよう義務づける法律が表現の自由に違反するとした判決が下されました。さらに、企業の経営者が人工妊娠中絶に反対する宗教的信条を有している場合には、当該企業に対し、保険適用の対象として人工妊娠中絶を含む保険料を支払うよう義務づけることは、信教の自由に違反するとした判決も下されています。現在、表現の自由や信教の自由は、マイノリティの権利を否定するための「武器」として使用されるようになっています。

 講演の最後には、日本における孔子廟訴訟や旧優生保護法訴訟を取り上げながら、マイノリティー保護を含む憲法学を構築することの重要性が指摘されました。

 講演会には多くの学生が参加し、多くの質問もなされ、とてもよい講演会となりました。

令和4年度講演会(萩野貴史氏)

2022年10月27日(木)、名城大学法学部准教授萩野貴史氏を迎え、「死体遺棄罪の現代的課題」という演題でご講演頂きました。

人の死体を遺棄する行為は、死者に対して人々が抱く敬虔感情を害することから、刑法190条によって処罰されます。もっとも、「敬虔感情を害するか否か」の判断はときに難しく、法律家の頭を悩ませるようなケースもあります。

講演では、近年登場してきた様々な葬送方法が紹介され、それらがどこまで許容され、どこから遺棄にあたるのかという問題が提起されました。また、死産の子どもの死体を自宅内で一時的に安置・保管した親が死体遺棄罪に問われているケースについて、遺棄の一類型としての「隠匿」の限界はどこにあるのかという問いも投げかけられました。さらに、遺骨から抽出した炭素でダイヤモンドを作って形見とする「手元供養」を素材として、「死体に由来する物」は刑法上「死体(遺骨)」なのか「財物」なのか、という解釈上の論点も紹介されました。

講演後にも学生からの質問が相次ぎ、学生の関心の高さがうかがわれました。

令和3年度講演会(髙橋洋氏)

2021年12月16日(木)、本学法務支援センター教授髙橋洋氏を迎え、「脱宗教国家 vs 信教の自由」という演題でご講演頂きました。

多くの近代国家では、多数派宗教団体による政治への介入を排除するため、政教分離原則が採用されています。他方、個々の人々にとって宗教がもつ重要性は、依然として失われてはいません。講演では、まず、2019年司法試験予備試験論文問題(憲法)等を素材として、公教育と個々人の信仰とのかかわりについて考察が加えられ、「政教分離と個人の信仰」という単純な二項対立には還元できない多様な問題(スポーツにおけるジェンダーステレオタイプ、国家による特定種目の必修化の憲法適合性等)の存在も指摘されました。そのうえで、憲法で祭政一致から政教分離への転換を目指した日本という国家(政府)が、なぜ現在に至るまで宗教との関係を断ち切れていないのかが問われ、政治権力の正統性が必ずしも民主主義に立脚できておらず、むしろ支配層の道徳的正統性が依然として宗教に依拠していること、多くの国民にとっては、祭政一致も、それを否定する政教分離も「建前」「他人事」でしかないこと等が、その原因ではないかとの仮説が示されました。

令和2年度講演会(中止)

新型コロナウイルスの影響に鑑み、講演会中止

令和元年度講演会(竹内康博氏)

2019年10月23日、「令和元年度宗教法制研究所主催講演会」が開催されました。

今年度は、愛媛大学法文学部の竹内康博教授を講師にお招きし、「民法と宗教法―墓地使用権の法的性格―」と題してご講演いただきました。

講演では、まず、そもそも宗教法とは何かという問題を、憲法や民法、宗教法人法、そして愛知学院大学宗教法制研究所規程などと関連付けてお話になりました。そして、宗教法における墓地(墓地法)の位置づけに触れられた上で、家制度、墓地の所有形態や経営形態・経営主体、墓地使用権の分類といった多角的な視点から現行法における墓地使用権の法的性格を論じられました。なお、後半には、竹内教授が実態調査を行われた各地の墓地の写真がスクリーンに映し出され、墓地に対する人々の意識や風習・慣習の違い、墓地の構造の違いなどが紹介され、墓地使用に関わる問題の解決の難しさが垣間見られました。

当日は、大学の講義では触れることの少ない墓地とその使用権についての講演を聞くことができる貴重な機会として、多くの学生や教員が参加し、講演に熱心に耳を傾けていました。

平成30年度講演会(藤原究氏)

2018年12月4日、「平成30年度宗教法制研究所主催講演会」が開催されました。

今年度は、杏林大学の藤原究准教授を講師にお招きし、「宗教法人の管理運営とそれを取り巻く法的問題」と題してご講演いただきました。

講演では、まず、宗教を信仰する人の年齢層別の割合、全年代および各年代における過去60年間の推移、寺院・神社・教会の数(寺院の絶対数では愛知県が4,589寺で全国1位とのことです)などが紹介されました。次いで、宗教法人の設立と管理運営へと進み、運営に関わる法的問題として、代表役員解任に関する事案、ペット霊園に関する紛争、文化財の保護にかかわる問題が採り上げられました。最後に、現在の宗教法人が抱える諸問題、たとえば、経済的基盤の喪失、信者との関係性などが指摘され、その対応策として、宗教団体の公益性に対する国の援助強化、寄付金税制の見直し、財務・教団運営の透明化・民主化、公益的活動の強化などが提示されました。

当日は、宗教法人の管理運営という専門性の高い講演を聞くことのできる貴重な機会となりました。

平成28年度講演会(三宅雄彦教授)

2016年11月24日、宗教法制研究所主催の講演会が行われました。講師は埼玉大学大学院人文社会科学研究科・三宅雄彦教授、演題は「プロテスタント教会法の基本思想」でした。
三宅教授は、まず、今年がちょうどマルティン・ルターの宗教改革から500周年に当たることに触れたうえで、ドイツにおける教会(とりわけドイツ福音主義教会)と教会法の地位について説明されました。
つぎに、ドイツ憲法における教会の地位について、①1919年のワイマール憲法による政教分離の確立や1949年の(西)ドイツ基本法による教会条項の編入により、国家教会法の伝統が形作られてきたこと、②ナチ抵抗運動や社会保障で教会が果たした役割の重要性から教会に特権が認められるようになった一方で、ドイツ社会のイスラム化とドイツ人の教会離れが進んでいることなどについて説明されました。
そして、ドイツ法学における教会法の地位について、とくに「神の言葉を誰が聞くか?」という観点から、カトリックとプロテスタントでは教会法の位置づけが変わってくる点を分かりやすく解説して頂きました。

平成27年度講演会(野田昌吾教授)

2015年11月17日、宗研の講演会が開催されました。講師は大阪市立大学大学院法学研究科の野田昌吾教授、演題は「デモクラシーの現在とポピュリズム」でした。先進各国でポピュリズムと呼ばれる政治的な動きが見られるようになってきていることから、このポピュリズムとは何か、また、なぜ先進各国で同じような動きが生じているのかについてお話し頂きました。とくにドイツにおける社会の変化とそれが代表民主制に与える影響について説明され、さらには大阪の橋下徹氏や維新の会をどう考えるかなどにも触れられました。

平成26年度講演会(布川玲子教授)

2014年6月23日、「平成26年度宗教法制研究所主催講演会」が開催されました。
 
本年度は、元山梨学院大学法学部教授の布川玲子先生をお招きし、「砂川事件と田中最高裁長官」と題してご講演いただきました。

布川先生は、昨年11月に出版された『砂川事件と田中最高裁長官 ―米解禁文書が明らかにした日本の司法』(日本評論社、2013年)の編著者の一人でいらっしゃいます。

講演では、まず、砂川事件とはどのような事件か、事件の概要について、その政治的背景も含め、丁寧な説明がなされました。その後、当時の田中耕太郎最高裁長官によるアメリカ側への裁判情報提供を示す、1959年8月3日に東京のアメリカ大使館から国務長官宛てに送られた書簡(G73書簡)を、米国の情報自由法(FOIA)に基づき、布川先生が入手された経緯について説明されました。そこでは、情報公開をめぐる日米比較についても議論が及びました。次に、当時の田中長官の砂川事件をめぐる行動について、司法権の独立、裁判官の独立、そして、裁判所法75条(評議の秘密)の観点から、その法的問題点について指摘されました。司法権の独立、裁判官の独立に関する説明では、大津事件にも言及され、問題の核心を明確に指摘されました。従来、田中最高裁長官のこうした行動については、「対米従属司法」といった紋切り型の批判が多くなされましたが、布川先生は、単なる対米従属司法と批判するだけでは、田中長官の行動を深いレベルで批判することはできないのではないか、と問題提起されました。むしろ、田中長官はその信念から積極的に行動しているのであり、単なる「従属」ではないのではないか、と述べられました。こうした問題意識に基づいて、布川先生は、田中長官の行動を信念のために積極的に司法を用いるある種の「司法積極主義」と捉えることができ、それは、田中長官の「自然法の実践」と捉えられるのではないかと論じられ、自然法一般、そして田中長官の自然法思想を説明されました。こうした議論をふまえ、最後に、田中長官の砂川事件をめぐる当時の一連の行動について疑問を投げかけられました。

当日は、多くの学生、教員そして一般の聴講者が参加し、熱心に講演に耳を傾けました。今回の講演は、司法のあり方の根幹を再考させられるテーマであり、かつ、集団的自衛権という「いま」の問題にも密接につながるテーマであったため、司法に関し、理論的観点からも実践的観点からも興味深い問題について、あらためて考えを深める貴重な機会となりました。

平成25年度講演会(瀬戸山晃一教授)

2013年7月1日、「平成25年度宗教法制研究所主催講演会」が開催されました。

本年度は、大阪大学未来戦略機構の瀬戸山晃一特任教授を講師にお招きし、「生命科学技術の発展と法~遺伝学的情報のプライバシーと遺伝子差別禁止政策~」と題してご講演いただきました。

講演は、まず、法は副作用を持つ薬のような制度であり、目的・手段・波及効果について考える必要があるとの指摘から始まりました。続いて、医療と法をめぐるさまざまな問題を提示され、事実と価値の区別、そしてそれらの相互関係について論じられました。次に、法規制の原理としてのパターナリズム、医療倫理の4原則についての説明がなされ、遺伝情報の解明が遺伝子治療と個別化医療の発展を促す反面、遺伝情報が格差を助長しかねないという問題点が指摘されました。そしてこの点に関連して、遺伝子解読の低コスト化が進んでいること、そして今後、就職の際に遺伝情報に関わる差別を受ける可能性があることが紹介されました。さらに、積極的是正措置を求めるために遺伝子検査が利用されうることの紹介、合理的差別と不当な差別についての説明がなされました。続いて、法と経済学の観点から、情報を得るための情報費用を節約するための合理化の結果、差別が生じるメカニズムについて説明され、その上で、アメリカを例に、遺伝子差別禁止法が、例えば健康リスクを負う被保険者の遺伝子情報について、本人は知ることができる一方、保険会社は知ることができないという「情報の非対称性」を生み、その結果、リスクの高い者しか保険に入らなくなり、保険料が上がり続け、最終的には保険市場が崩壊してしまうという、いわゆる「逆選択」の問題が生じうることが紹介されました。また、遺伝子禁止法の目的と意義についても論じられました。

当日は、多くの学生と教員が参加し、講演に熱心に耳を傾けました。今回の講演は、パターナリズムや、法と経済学といった多角的な視点から、生命科学技術の発展と法のあり方というきわめて現代的な法の問題について考えを深めることができる貴重な機会となりました。

平成24年度講演会(高橋広次教授)

2012年6月25日、「平成24年度 宗教法制研究所主催講演会」が開催されました。

本年度は、南山大学法学部の高橋広次教授を講師にお招きし、「宗教と自然法」と題して講演いただきました。

講演は、まず、宗教的自然本性についての説明からはじまりました。そこでは、「私」という存在、つまり自我の存在についてのわれわれの理解を確認し、自我の有限性の認識、超越性への志向、人間の自由意思、存在と所有について平明な説明がなされました。次に、「信じる」こと、宗教の社会的性格、教義とは何か、自然宗教と実体宗教の区別などについて解説されました。さらに、実体宗教の多様性と宗教的自然法、実体宗教と実定法の差異、国家と宗団との区別と関係についてお話いただきました。

高橋先生は、自然法研究の分野で、わが国を代表する著名な研究者のひとりであり、『ケルゼン法学の方法と構造』(九州大学出版会、1979年)、『環境倫理学入門 - 生命と環境のあいだ』(勁草書房、2011年)等、多くの著書・論文を公刊されております。

当日は、本格的な自然法についての講演を聞くことのできる貴重な機会として、多くの学生と教員が参加し、講演に熱心に耳を傾けました。

平成23年度講演会(大出良知教授)

2011年6月27日、「平成23年度 宗教法制研究所主催講演会」が開催されました。

本年度は、東京経済大学現代法学部の大出良知教授を講師にお招きし、「死刑と裁判員裁判」と題して、ご講演をいただきました。

大出先生は、刑事裁判における誤判問題を大きな研究テーマとされており、これまでに、再審法制の改革論にはじまり、捜査弁護の活性化、さらには司法制度それ自体の抜本的改革論まで、ひろく誤判防止のための理論研究を積み重ねてこられました。そのような問題関心から、近年には、司法制度改革推進本部の「裁判員制度・刑事検討会」の委員として、裁判員制度の制度設計にも関与されました。当日は、そのご経験も踏まえて、裁判員制度の意義についてのお話もうかがうことができました。

ご講演は、名張事件等、いまでも冤罪ではないかと疑われている死刑事件の紹介からはじまりました。その後、松山事件等、冤罪であることが裁判所によって確認された事件の紹介を踏まえながら、お話は、「なぜ刑事裁判は誤るのか」という問題に及んでいきました。ここでは、「不透明な裁判所」という根本的な問題について言及され、そのうえで、これを改善する契機となりえたのが、司法制度改革であり、裁判員裁判の導入であった、とのご主張が展開されました。

最後には、裁判員制度の導入によって、死刑問題について、市民が「改めて正面から向き合うということで考える」ことが求められている、との問題提起もなされ、大出先生のご講演は締め括られました。

当日は、非常に多くの学生・教員が出席し、非常に熱心に大出先生のご講演に耳を傾けていました。刑事裁判の本質的問題について、深く考えさせられる大変貴重な機会となりました。

平成22年度講演会(宮下修一准教授)

2010年6月21日、「平成22年度 宗教法制研究所主催講演会」が開催されました。

本年度は、静岡大学大学院法務研究科の宮下修一准教授を講師にお招きし、「宗教と消費者保護――霊感商法を中心に」と題して講演いただきました。

講演は、宗教に関連する消費者被害の実態の紹介から始まりました。2008年度(平成20年度)に、全国から国民生活センターに寄せられた情報によると、宗教に関連する「開運商法」の被害は約3000件あり、これに分類されなかったアクセサリー、祈祷サービスなどを含めると、潜在的な被害は非常に大きいものと推測されることをご説明いただきました。ただ、宗教をめぐる問題は、憲法20条に規定されている「信教の自由」との関係に留意しなければならず、単純な問題ではない、との説明がなされました。なぜなら、宗教的活動は、信教の自由の一形態として保障されなければならないからです。そこで、宗教トラブルにおいて、民事的責任をいかなる場合にどのように追及できるかについて、詳しい解説をいただきました。具体的には、不法行為・公序良俗など民法上の規定に基づく責任追及、さらには、消費者契約法・特定商取引法に基づく責任追及について、それぞれの要件・効果などの違いなどを比較しつつ、わかりやすいご説明をいただきました。

大学生が消費者被害にあうことも少なくないため、当日は、多くの学生と教員が興味を持って参加し、講演に熱心に耳を傾けました。今回の講演は宗教をめぐる問題にとどまらず、ひろく消費者被害の実態とその対処法について考えるための大変貴重な機会となりました。

平成21年度講演会(丸山英二教授)

2009年11月5日、「平成21年度 宗教法制研究所主催講演会」が開催されました。

本年度は、神戸大学大学院法学研究科の丸山英二教授を講師にお招きし、「臓器移植法の改正をめぐって」と題して講演いただきました。

講演は、本年7月に成立した改正臓器移植法について、その改正の背景についての解説からはじまりました。国際移植学会の「イスタンブール宣言」やWHOでの移植ガイドライン改正の動きなど、臓器移植医療をめぐる国際的な動きが確認されました。次に、「移植医療とは何か」、また「脳死とは何か」について詳細かつ平明な説明がなされました。さらに、死体臓器移植について、関連するこれまでの法律を概観し、それをふまえた上で、現行臓器移植法について、とくに臓器の摘出要件、脳死判定実施の要件、そして、臓器提供の意思表示のあり方・承諾要件について、詳しい解説がなされました。その後、講演は改正臓器移植法の話題に移り、改正までの経緯、そして、A案からE案まで複数あった改正案について、そのポイントを概観し、7月に国会で可決・成立したA案について、説明されました。最後に現行法と改正法の異同点を比較し、改正法の施行に向けた検討課題についてお話いただきました。

丸山先生は、厚生労働省の「臓器提供に係る意思表示・小児からの臓器提供等に関する作業班」の班員を務めておられ、改正臓器移植法により認められることになった親族優先提供のあり方についての論点・検討課題についても、最新の議論を紹介いただきました。

時宜にかなったテーマでの講演で、当日は、多くの学生と教員が参加し、講演に熱心に耳を傾けました。今回の講演は、臓器移植法の改正というアクチュアルで具体的な問題から、人の生と死のあり方、、また、そうした生命倫理の問題に法がどのようにかかわるのかなど、法と倫理について思考をめぐらす大変貴重な機会となりました。

なお、当日の講演資料は、丸山先生のウェブサイトに掲載されています。

平成20年度講演会(秋葉悦子教授)

2008年11月4日、「平成20年度 宗教法制研究所主催講演会」が開催されました。本年度は、富山大学経済学部の秋葉悦子教授を講師にお招きし、「人間の尊厳と初期のヒト胚の研究利用」と題して講演いただきました。

講演は、2001年に施行された「ヒトに関するクローン技術等の規制に関する法律」が、生殖目的でのクローニングを禁止している(同法3条、16 条)一方で、「ES細胞」の作成目的でのクローニングを禁止してはいない、という点を手がかりに、日本の現行法が「ヒト胚」の法的保護についてどのような態度で臨んでいるかを確認することから始まりました。そして秋葉先生は、ES細胞を作成する目的でクローン胚を破壊することが果たして許されるのだろうか?という問いを提起され、この問題の解決の糸口を、法律の背後にまで深くさかのぼって、「生命倫理学」の中に求められました。

生命倫理に関しては、日本ではこれまでのところ、個人の自由や自己決定権といった発想を指導原理とする「個人主義」的な考え方がその主流をなしてきたけれども、他方、これに対して、ヨーロッパ大陸法には、「人間の存在」それ自体に価値を見出し、「人間の尊厳」を例外なき最高原理として据える、「人格主義生命倫理」と呼ばれるべき考え方の系譜がある。秋葉先生は、このように2つの生命倫理学の系譜を対比した上で、後者の立場を体現したものとして、ヴァチカン(ローマ・カトリック教会)の見解――ヨハネ・パウロⅡ世『生命の福音』(1995)――をとり上げられ、その内容を分析されるとともに、これに対して哲学者から提起された異論、さらに、その異論に対する人格主義の立場からの反論などを詳しく紹介されて、ヒト胚の保護をめぐる議論の現時点での到達点を示されました。

当日は、非常に多くの学生と、そしてまた教員も出席して、秋葉先生の講演に耳を傾けましたが、普段の法学部の講義においては聴くことのできない、「法と生命倫理」をめぐる問題の最先端の議論に触れることのできる、大変貴重な機会となりました。

平成19年度講演会(甲斐克則教授)

2007年11月16日、宗教法制研究所主催講演会を開催しました。本年度は、早稲田大学大学院法務研究科の甲斐克則教授を講師にお招きし、「尊厳死問題の法理と倫理」と題して講演いただきました。

甲斐先生は、まず、厚生労働省の「終末期医療に関する調査等検討会報告書」(2004年)、日本尊厳死協会によるリビングウィルを中心とした立法化要請や、川崎協同病院事件判決(横浜地判平成17・3・25、東京高判平成19・2・28)など、尊厳死に関する最近の国内の動きについて詳しく説明され、また、アメリカのカレン・クィンラン事件(1976年)など、諸外国の裁判や立法の動きについて紹介されました。そして、尊厳死問題の法的・倫理的許容の枠組みを示された上で、尊厳死問題についてのガイドライン要綱について先生のお考えをお話しされました。

約80名の学生が熱心に甲斐先生の講演に聴き入りました。どのようにして死を迎えるかは、私たち自身そして家族、また社会にとって大きな課題です。今回の講演会は、法・倫理・死とのかかわりについて考える機会となりました。